『生きていくのに大切な言葉 吉本隆明 74語』

勢古浩爾生きていくのに大切な言葉 吉本隆明 74語』、二見書房、2004

    • -

 思想家として著名な吉本隆明のあらゆる文章から、勢古浩爾が「これが吉本だ」と思った言葉を74ほど選んで抜粋したもの。勢古浩爾の他の本と同様、文壇の人間でもなければ学者でもないという立場から繰り出される(やや言いたい放題気味の)言葉が小気味よいのだが、この本の売りはなんといってもここで提示される意外な「人間 吉本隆明」であろう。
 と言っても吉本隆明を知らない方も多いと思うが、『共同幻想論』や『言語にとって美とは何か』などの著作で一世を風靡した非常に有名な思想家である(すごいまとめ方だが)。いや、そんなことを言うよりも、「よしもとばななの父」と言った方がわかりやすいのかもしれない。
 この本でどういう言葉が紹介されていてどうそれが面白いor衝撃なのか、ということを紹介しようかと考えたが、あえてここでは具体的な内容に立ち入らず、僕自身が感じたことに触れるにとどめたい。
 それは、吉本の言葉には少なからず目を開かされたし「ああそうなのか」と思わされたが、しかしそれが可能なのは、自分も同じ種類の問題に頭を悩ませていたからではないのか、ということだ。換言すれば、そもそも似たような問題意識を抱えていないと、その文言の背後に潜んでいる意図(ないしは思索の軌跡)が理解されることなく「だからどうした」で終わってしまう、ということだ。
 この問題(つまり、自分の意図が十分には相手に伝わらないということ)には、ここ一年くらい悩まされてきたし、これからも頭を抱えることになるだろうと思う。
 それに対する現時点での方策は二つ。
 一つ目。究極的には理解されないということを、黙って受け入れる。どれだけ似た感覚を持っている人間でも、分からないことはある。その事実を受け止め、飲み込んだうえで、
 二つ目。理解してもらえるような形に整理して、言葉を用意しておくこと。いざ相手にじっくり話を聞いてもらえる機会があっても、自分で言葉を練っておかなければそれを無駄にしてしまう。