うひ山ふみ
- 作者: 本居宣長,村岡典嗣
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1991/04/01
- メディア: 文庫
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いかに初心なればとても、学問にこころざすほどのものは、むげに小児の心のようにはあらねば、ほどほどにみづから思ひよれるすぢは、必ずあるものなり。又面々好む方と、好まぬ方とも有り、又生れつきて得たる事と、得ぬ事とも有る物なるを、好まぬ事得ぬ事をしては、同じやうにつとめても、功を得ることすくなし。又いづれのしなにもせよ、学びようの次第も一わたりの理によりて、云々してよろしと、さして教へんは、やすきことなれども、そのさして教へたるごとくにして、果してよきものならんや、又思ひの外にさてはあしき物ならんや、實にはしりがたきことなれば、これもしひては定めがたきわざにて、實はただ其人の心まかせにしてよき也。詮ずるところ学問は、ただ年月長く倦ずおこたらずして、はげみつとむるぞ肝要にて、学びやうは、いかやうにてもよかるべく、さのみかかはるまじきこと也。いかほど学びかたよくても怠りてつとめざれば、功はなし。又人々の才と不才とによりて、其功いたく異なれども、才不才は、生れつきたることなれば、力に及びがたし、されど大抵は、不才なる人といへども、おこたらずつとめだにすれば、それだけの功は有る物也。又晩学の人も、つとめはげめば、思ひの外功をなすことあり。又暇のなき人も、思ひの外、いとま多き人よりも、功をなすもの也。されば才のともしきや、学ぶ事の晩きや、暇のなきやによりて、思ひくづをれて、止ることなかれ。