『文学部唯野教授』

筒井康隆文学部唯野教授』、岩波現代文庫

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 早治大学文学部の唯野教授が大学の内部事情を次々暴露しながら進む、教授と作家という二足のわらじを履きかえる生活が半分で、残り半分は唯野教授が立智大学で行う文芸批評という構成の小説。1990年に岩波書店から刊行されベストセラーとなり論争を巻き起こしたので有名、だそうですが、当時7歳(!)であった僕がそんなことを知るわけがありません。
 それはともかくとして、面白いです。唯野教授の日常生活編だけでも十分に小説として読めます。というよりは、文芸批評や文学理論にあまり興味のない読者はほとんどそっちしか読まないような気もします。
 しかしこの小説の面白さは、やはり唯野教授の名講義にあると思います。このまま大学の講義にしても全く支障がないと言えるくらい、わかりやすく読みやすい語り口です。「印象批評」に始まり「ポスト構造主義」に終わるという欲張りな構成にも関わらず、この分量で済んでいるのは見事。

 この唯野教授のモデルが誰なのかは知るべくもありませんが(第一筒井氏が怒るでしょう)、その講義は T.Eaglestone『Literary Theory: An Introduction』 がモデルと言われています(邦訳が『文学とは何か』(大橋洋一訳)という題で岩波書店から出ています)。こちらは唯野教授の講義ほどスラスラとはいかないようですが、わかりやすいと定評のあるテキストです。興味のある方は併せて読んでみてください。僕も今読んでいます。